2015.1.13.(火)

古町、寒き夜に

　話は前後するが、１月７日、僕は新潟へ向かっていた。冬の日本海荒れる北陸本線、鈍行でまずは金沢まで北上し、そこから新潟までは特急北越に乗り込んで、４時間強の旅。新潟って、遠いんだろうか。旅っていうと、次の目的地まで１２時間かかりますとか、いやもっと昔で言えば、３日はかかるとか。そんな感覚から言うと、４時間はもう旅とは言えないかも知れない。でもそんな近い新潟でさえも、いざ行くとなるとなかなか行けるものではない、それくらい、日常の我々の足は鈍く、腰は重い。僕の足は、軽やかになっただろうか？

　雪が風に煽られ斜めに降る中を、電車に揺られて進む。色々な想いが胸の裡を去来する。僕は笑いもせず、かといって苦み走ったりもせず、淡々と電車に揺られて進んでいく。これだけ荒れているにもかかわらず、海は、かすかに青かった。

　この正月は福井もたくさん雪が降った。正月は除雪に追われた。僕が子供のころに比べて、地球は随分暖かくなった気がする。いや、もはや気のせいではない。福井は、目に見えて雪が減った。気温が高いのか、降ってもすぐにびしゃびしゃのみぞれ状になってしまい、冷たい水は靴底のわずかな隙間から侵入して、靴下ごと足首を濡らす。僕の中では、福井の冬は雪より雨の印象の方が強くなった。そらは灰色に曇り、同じように街にも灰色の影を落とす。降り出す雨は、街の色を映した、灰色の雨だ。

　ところがこの正月に降った雪で、福井は雪国だと言うことを思い出した気がする。灰色の雨が雪に変わり屋根と車を埋め尽くすころ、街はすっかり白に洗い上げられていた。そんな風景を思い出しながら、電車は新潟の海岸線を離れて、内陸部に進路をとった。長岡近辺まで来ると、すべてが雪に埋め尽くされ、田畑は広大な雪原へと姿を変えていた。放り出されたら、誰でもすぐに遭難することができる。美しい雪が災害をもたらす、新潟雪原の、耐え抜く木立だ。

　新潟の夜だ。古町の夜だ！僕は帰ってきた。前に来た時は、夏だった。立体駐車場に車を停めて、窓を開け放して眠った。それでも暑い新潟の夜だったが、今は思い出せない。寒さの中で輝きを増した街の灯が、何とも眩しく目に映る。顔の表情が固まってしまう程冷たい風が吹き付ける。何はともあれ僕は帰ってきた。

　１月７日、新潟ゴールデンピッグス。店長の言葉翔くんに誘われ、三度踏むゴルピのステージ。とは言っても、ゴールデンピッグスはビルの３階から６階までがライブハウスになっていて、ブラックステージ、レッドステージ、イエローステージと３つのスペースがある。僕はブラックとレッドは立たせてもらったが、今回の会場は３階イエローステージ。小ぢんまりしたステージの、弾き語り向けの会場だ。僕はイエローに立つのは初めてだ。

　言葉翔くんが、新潟の精鋭たちを集めてくれていた。リハーサルを聴いているだけで、今日この日のレベルが相当高いことが分かった。新潟のすべての弾き語りアーティストを知っている訳ではない。しかし、この場において直観としてわかることは、悔しいかな、新潟の弾き語りのレベルは福井のそれよりも高いということであった。そんな中に、僕は放り込まれるわけで。そして、否応なしに僕は福井代表なんだ。仁義なき戦いツアーは、僕にいいことを、いやいいとかじゃなくて、そんなんじゃなくて当たり前のことを教えてくれた。県外に出たら、否応なしに福井代表だ。下手はこけない。

　物販コーナーも充実している。福井の弾き語りライブは、物販が寂しい。グッズはおろか、音源を持っている人が少ないのだ。僕は、福井も早くこうなればいいのにと思う。ちゃんと価値を創造できて、人々に音楽を伝えられる、そんな人が増えたらいい。

　出演者の１人、吉井ミキ。素晴らしかった。この日は全員が全員素晴らしかった。楽曲や、演奏、そして気持ちのレベルも高かった。こんな輪の中に混ぜてもらえて光栄だ。僕は上手くやれただろうか？でも、ステージを降りた時は、スッキリした気分だったよ。福井代表として、少なくとも負けないステージがやれたとは思っている。今度は彼ら一人一人、福井に来てライブしてほしいと思った。

　ライブ終了後は中打ち上げで、すでに僕は泥酔状態。その後、翔くんや誠くん、森本真伊子ちゃんや先述のミキちゃんと２軒目へ。この日は出演していなかった、コバヤシタクローも現れた。滅多に酔いつぶれることがない翔くんらしいが、この日は真っ先にノックアウト。五郎八というどぶろくみたいなやつが強烈に効いたらしい。フラフラでこの日の宿に。宿と言っても、ゴールデンピッグスが運営するスタジオの一室に泊めてもらうわけなんだが。

　翌日につづく。